会計事務所の現場でも、AI開発やバイオ事業を手掛けるクライアントが増えてきたと感じている方は多いのではないでしょうか。そうした企業を担当しているなら、令和8年度税制改正で新設された「戦略技術領域型」という制度をぜひ把握しておいてください。
「研究開発税制なんて大企業の話では?」と思いがちですが、実はIT系・バイオ系の中堅・中小企業にも十分関係し得る制度です。控除率が40〜50%という数字を見れば、その破格さが伝わるはずです。
そもそも現行の研究開発税制をおさらい
まず土台を確認しておきます。現行の研究開発税制には主に「一般型」と「中小企業技術基盤強化税制」があります。一般型では、試験研究費の増加率などに応じて法人税額の最大25%(通常は最大20%)を控除できます。
出典:国税庁「No.5441 研究開発税制について(概要)」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5441.htm
今回新設された「戦略技術領域型」は、この既存枠とはまったく別枠で使える新しい類型です。上乗せではなく「もう一本の柱が生えた」イメージです。
戦略技術領域型の中身
対象技術分野(6領域)
産業技術力強化法の「重点産業技術」として指定される以下の6分野が対象です。
| 分野 | 具体例 |
|---|---|
| AI・先端ロボット | 生成AI、産業用ロボット制御など |
| 量子技術 | 量子コンピュータ、量子通信 |
| 半導体・通信 | 次世代半導体、6G技術 |
| バイオ・ヘルスケア | 創薬、バイオ製造、医療AI |
| フュージョンエネルギー | 核融合発電技術 |
| 宇宙 | 衛星技術、宇宙輸送 |
出典:経済産業省「令和8年度 経済産業関係 税制改正について」 https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2026/pdf/03.pdf
この6分野のどれかに関連する試験研究を行っていれば、対象になり得ます。「うちの会社は関係ない」と決めつける前に、実際の研究内容を確認してみてください。意外と当てはまるケースがあります。
税額控除率
| 研究の形態 | 控除率 |
|---|---|
| 自社単独で実施する戦略技術領域の研究 | 40% |
| 認定研究開発機関との共同・委託研究 | 50% |
出典:税務研究会「研究開発税制に新設の戦略技術領域型、実質的な適用開始は令和9年度の見通し」 https://www.zeiken.co.jp/news/05463815.php
出典:税理士法人山田&パートナーズ「研究開発税制の見直し」 https://www.yamada-partners.jp/reform/r8/h01-revision-of-the-rd-tax-system
現行の一般型(最大20〜25%)の倍以上です。試験研究費が大きい企業ほど、この差は文字通り桁違いの節税効果につながります。
控除上限は法人税額の10%で、限度超過分は3年間繰越し可能です。
出典:EY Japan「令和8年度税制改正大綱」 https://www.ey.com/ja_jp/insights/tax/info-sensor-2026-02-02-tax-update
使うには「認定」が必要
ここが一番の実務ポイントです。戦略技術領域型は、産業技術力強化法に基づく「重点研究開発計画」の認定を受けることが前提条件です。
一般の研究開発税制のように「試験研究費を申告すればOK」というわけにはいきません。事前に経済産業省への計画認定申請という手続きが必要です。
認定手続きの詳細は、今後改正される産業技術力強化法の施行に合わせて公表される予定です。
出典:税務研究会「研究開発税制に新設の戦略技術領域型、実質的な適用開始は令和9年度の見通し」 https://www.zeiken.co.jp/news/05463815.php
「令和8年度改正」だけど使えるのは令和9年度から
これは担当クライアントに必ず伝えてほしい点です。
法律上は令和8年度税制改正として成立していますが、産業技術力強化法の整備・認定手続きの準備が整うまでには時間がかかるため、実質的な適用開始は令和9年度(2027年度)からの見通しです。
出典:税務研究会「研究開発税制に新設の戦略技術領域型、実質的な適用開始は令和9年度の見通し」 https://www.zeiken.co.jp/news/05463815.php
「令和8年度の改正だから今期から使える!」と早合点するクライアントが出ないよう、この点は明示的に伝えておく必要があります。
現行の研究開発税制との比較
| 項目 | 一般型(現行) | 戦略技術領域型(新設) |
|---|---|---|
| 対象 | すべての試験研究費 | 重点産業技術に係る試験研究費 |
| 控除率 | 最大20〜25% | 40%(共同・委託は50%) |
| 控除上限 | 法人税額の25%まで | 法人税額の10%(別枠) |
| 事前認定 | 不要 | 必要(重点研究開発計画の認定) |
| 繰越し | 条件付きで可 | 3年間繰越し可 |
一般型と戦略技術領域型は別枠で併用可能です。控除上限はそれぞれ別管理になるので、うまく組み合わせれば節税効果がさらに大きくなります。
今から動いておくべき4つのこと
① 対象クライアントの洗い出し
AI・IT開発、バイオ・製薬、半導体・電子部品、ロボット製造などの業種のクライアントを確認しましょう。6分野のどれかに研究が絡んでいれば対象になり得ます。
② 研究開発費の記録整備を促す
試験研究費の集計・区分管理は今から整えておくと有利です。どの費用が「戦略技術領域に係る試験研究費」かを区分できる体制を作っておきましょう。
③ 経済産業省の情報を定期的にチェック
認定手続きの詳細は今後順次公表されます。事務所としていち早くキャッチし、クライアントへの情報提供で先手を打つことが、事務所の信頼性強化にもなります。
④ 適用時期の誤解を防ぐ
「令和8年度改正だが実質的な適用は令和9年度から」という点は、早めに伝えておきましょう。
まとめ
令和8年度税制改正で新設された研究開発税制「戦略技術領域型」は、AI・量子・半導体・バイオなど6分野を対象に、自社研究40%・共同委託研究50%という破格の税額控除率を設定した制度です。
活用には産業技術力強化法に基づく事前認定が必要で、実質的な適用は令和9年度(2027年度)からの見通し。現行の一般型と別枠で併用できる点も重要です。
先端技術系の企業を担当している事務所であれば、今のうちに制度の骨格を把握して、クライアントへの説明に備えておくことをお勧めします。
免責事項: 本記事は情報提供を目的としており、具体的な税務判断については必ず税理士等の専門家にご相談ください。また、税法は改正される場合があります。最新情報は国税庁・経済産業省等の公式サイトをご確認ください。
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