【2026年版】租税条約届出書の電子化で非居住者源泉徴収を効率化

# 【2026年版】租税条約届出書の電子化で非居住者源泉徴収を効率化

「また紙ですか…」と海外取引先に言われた話

海外のフリーランスや外国法人にライセンス料・コンサル料を支払うたびに、税理士の机に積み上がっていく租税条約に関する届出書。私の事務所でも長らく、PDFを印刷して相手方の押印をもらい、税務署に郵送するという昭和スタイルを続けてきました。

ところが先日、シンガポールの取引先から「いまどき紙ですか?」と返信が来て、ハッとしました。実は令和3年度税制改正で令和3年4月1日以後、届出書に記載すべき事項は電磁的方法で提供できるようになっており、国税庁はそのFAQを令和7年(2025年)5月2日に改訂し、運用ルールをさらに整理しているのです
租税条約に関する届出書等に記載すべき事項等の電磁的提供等について|国税庁

今回は、この制度の概要と、会計事務所が顧問先のために整えるべき実務フローを整理しておきます。

そもそも「租税条約に関する届出書」とは

非居住者等の居住地国と日本との間で租税条約等が締結されている場合に、その租税条約等の定めるところにより、非居住者等が支払を受ける国内源泉所得に対する課税の免除を受けようとするときは、租税条約に関する届出書を、その支払の前日までに、その国内源泉所得の源泉徴収義務者を経由して税務署長に提出することとされています
租税条約に関する届出書等に記載すべき事項等の電磁的提供等について|国税庁
例えば、海外のSaaSベンダーにライセンス料(使用料)を支払う場合、原則として20.42%の源泉徴収が必要になりますが、租税条約により軽減・免除を受けられるケースは少なくありません
No.2888 租税条約に関する届出書の提出(源泉徴収関係)|国税庁
。届出書を出し忘れて満額源泉徴収をしてしまうと、後から還付請求の手続が発生します
No.2889 租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求|国税庁
。これが地味に重い事務負担で、双方ともストレスを抱える典型例です。

電磁的提供制度の全体像

① 非居住者等 → 源泉徴収義務者への電磁的提供

非居住者等は、書面に代えて、届出書に記載すべき事項を電磁的方法(メール添付PDFなど)で源泉徴収義務者に提供できます。これによって、海外の取引先に「印刷して、サインして、郵送して…」とお願いする必要がなくなります。

② 源泉徴収義務者 → 税務署への電磁的提供(e-Tax)

源泉徴収義務者は、紙の届出書をスキャナで読み取って作成したPDFなどのイメージデータを、e-Taxを利用して所轄税務署へ送信できます。送信時には電子署名と電子証明書の添付が必要です
租税条約に関する届出書等に記載すべき事項等の電磁的提供等について|国税庁

つまり、「相手方→自社」と「自社→税務署」の二段ロケットを、どちらも電子で回せるようになっているわけです。

国税庁が定める電磁的記録の3つの要件

①②いずれの場面でも、添付書類(居住者証明書など)を含む電磁的記録は、次の要件をすべて満たす必要があります
租税条約に関する届出書等に記載すべき事項等の電磁的提供等について|国税庁

解像度

解像度は200dpi相当以上であること。

階調

白色から黒色までの階調が256階調以上(いわゆるグレースケール)であること。なお、カラー階調での提供も可能とされています。

ファイル形式

ファイル形式はPDF形式であること。JPEG形式またはJPG形式は令和10年(2028年)1月1日から提出可能となります
租税条約に関する届出書等に記載すべき事項等の電磁的提供等について|国税庁
。当面は「とにかくPDFに統一」と決めておくのが、現場ではいちばん事故が少ない選択肢でしょう。

非居住者から提供を受けるとき、源泉徴収義務者が講じる措置

非居住者等が電磁的方法で届出書情報を提供してきた場合、源泉徴収義務者(=支払をする日本企業や個人事業者)には、次の措置が求められます
租税条約に関する届出書等に記載すべき事項等の電磁的提供等について|国税庁

まず、非居住者等が行う電磁的方法による提供を適正に受けることができる措置を講じていること。次に、提供を受けた事項について、提供をした非居住者等を特定するための必要な措置を講じていること。最後に、その事項を電子計算機の映像面への表示および書面への出力をするための必要な措置を講じていること、の3点です。

「特定するための措置」というと身構えてしまいますが、要は誰から、いつ、どの届出書を受け取ったのかを後から再現できる状態にしておく、ということ。私たちの事務所では、専用のメールアドレスとクラウドストレージで受領窓口を一本化し、ファイル名を「相手方名_届出種別_提供日.pdf」というルールに統一しています。税務調査でファイルを見せるときも、この一手間が効いてきます。

e-Taxでイメージデータを送信する際の注意点

源泉徴収義務者が税務署へ電磁的提供を行うときは、紙の届出書をスキャナで読み込んだPDFを、e-Taxの「申請・届出」メニューから送信します。送信時には電子署名と電子証明書の添付が必要で、具体的な手順はe-Taxホームページの「イメージデータで送信可能な手続」のページで案内されています
租税条約に関する届出書等に記載すべき事項等の電磁的提供等について|国税庁

電子証明書はマイナンバーカードや商業登記電子証明書などが利用できます。会計事務所が顧問先に代わって送信する場合は、税理士の電子証明書による署名で対応できるので、顧問先側にカード読取機を用意してもらわなくて済むのが助かります。

会計事務所向け 5ステップ実務フロー

電磁的提供制度をフル活用すると、源泉徴収義務発生から税務署提出まで、紙・郵送ゼロで完結できます。社内マニュアル化しておくと、顧問先のオンボーディングが見違えるほど早くなります。

第一に、顧問先と海外取引先との契約時点で、租税条約上の軽減・免除の対象になるかどうかをチェック。第二に、海外取引先に届出書のPDFひな型を送り、必要事項を入力したPDFをメール返信してもらいます。第三に、源泉徴収義務者(顧問先または事務所)で、PDFと添付書類(居住者証明書等)を200dpi以上・グレースケール以上で保管。第四に、e-Taxで税務署へイメージデータを送信し、税理士の電子署名を付与。第五に、送信完了通知を保存し、当該支払については軽減・免除税率で源泉徴収を実行します。

このフローをチェックリスト化してしまえば、提出漏れによる「いったん20.42%で源泉徴収→後日還付請求」という非効率な往復を、構造的に減らせます
No.2889 租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求|国税庁

よくある誤解と落とし穴

「メールでPDFを送れば届出は完了」と思い込んでいる顧問先がときどきいますが、これは半分正解で半分まちがいです。税務署への提出はあくまで源泉徴収義務者が行うものであり、非居住者から源泉徴収義務者への提供と、源泉徴収義務者から税務署への提供は、別ステップで考える必要があります
租税条約に関する届出書等に記載すべき事項等の電磁的提供等について|国税庁

もうひとつ要注意なのが、添付書類である居住者証明書。こちらも3要件(200dpi・256階調・PDF)を満たさなければならないため、スマホで撮った薄暗い写真をそのまま使うと要件を満たさないリスクがあります。原則はスキャナまたは複合機での取り込み、どうしても撮影画像になる場合は解像度を事前確認、というルールにしておくのが安心です。

まとめ

国税庁が令和7年5月2日にFAQを改訂したことで、租税条約に関する届出書の電磁的提供は、いっそう使いやすい制度に育ちつつあります
租税条約に関する届出書等に記載すべき事項等の電磁的提供等について|国税庁
。海外取引が増えているクライアントを抱えている事務所ほど、社内フローを早めに電子化前提で組み直しておくと、源泉徴収・還付請求まわりの事務負担をまとめて軽くできます。電子帳簿保存法対応の流れと合わせて、国際税務の電子化も、今期の重点テーマに据えてみてはいかがでしょうか。

本記事は情報提供を目的としており、具体的な税務判断については必ず税理士等の専門家にご相談ください。また、税法は改正される場合があります。最新情報は国税庁等の公式サイトをご確認ください。

コメント