「人手不足が解消する日は来ない」──2026年版中小企業白書(2026年4月24日閣議決定)は、こう読み取れる強いメッセージを発しています。とくに会計事務所として顧問先と向き合う際、避けて通れないテーマが「労働供給制約社会」の到来です。本記事ではその内容と、税理士が果たすべき支援のポイントを整理します。
(出典: 経済産業省 2026年版中小企業白書・小規模企業白書が閣議決定されました)
1. 2040年に雇用者数が「8割半ば」まで落ち込む試算
白書が示した試算によれば、一定の前提のもとで中小企業における雇用者数は2040年に2018年比で約8割半ばまで落ち込む可能性があります。2010年代以降、多くの業種で人手不足感は強まり続けており、労働供給制約社会の到来とともに、この傾向はさらに深刻化する見通しです。
(出典: 2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要(PDF))
数字だけ見ると遠い未来の話に思えますが、実際には2030年代前半から急速に労働力が減り始めるわけです。今のうちから対策を始めないと間に合いません。
2. 賃上げの「原資不足」という構造問題
中小企業ではここ数年、春季労使交渉において約30年ぶりの賃上げ水準が続き、最低賃金の引上げも進行中です。日本経済の持続成長には中小企業の継続的な賃上げが不可欠とされる一方で、白書は大企業と比較して中小企業の賃上げ余力は厳しいと明記しています。
(出典: 2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要(PDF))
つまり「賃上げしないと人材が確保できない、でも原資がない」という板挟みの構造です。これを解く鍵が、次の労働生産性向上です。
3. 唯一の打ち手:労働生産性の向上
白書は明確に、「労働生産性を高めることが、持続的な賃上げ実現や人手不足への対応に向けて必要」と結論づけています。直近10年間における労働生産性の伸び率が大きい業種ほど、一人当たり賃金の上昇率も高いという相関が示されました。
(出典: 2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要(PDF))
労働生産性は次の式で表されます:
労働生産性 = 付加価値額 ÷ 労働投入量
分子(付加価値)を増やすか、分母(労働投入量)を減らすかの二択しかありません。具体的には:
- 分子を増やす:価格転嫁、高付加価値商品へのシフト、新規事業
- 分母を減らす:IT活用による業務効率化、外注・自動化、不採算業務の整理
4. 会計事務所が顧問先に提案できる4つの支援
① 価格転嫁の根拠づくり(原価管理支援)
得意先と価格交渉する際、原価の見える化なしでは「いくら値上げできるか」を主張できません。製品別・案件別の損益管理を整備すれば、価格転嫁の交渉力が大きく変わります。
② 補助金・税制優遇の活用支援
人手不足対策に直結する制度として、以下があります:
- 賃上げ促進税制(2026年改正で中小企業は最大35%控除)
- 業務改善助成金(最低賃金引上げと設備投資をセットで支援)
- IT導入補助金・ものづくり補助金
- 中小企業経営強化税制による設備投資の即時償却
これら制度の組み合わせ提案ができる事務所は重宝されるはずです。
③ 人時生産性(労働時間あたり付加価値)のモニタリング
月次試算表とあわせて「総労働時間あたりの付加価値額」を可視化することで、経営者は生産性の推移を実感できます。「先月より一人時間あたり〇円改善した」という具体性が、現場の改善意識を変えます。
④ 事業承継・M&Aの選択肢提示
人材も後継者もいない事業者にとって、M&Aは選択肢の一つです。早めにオーナー社長の意向を確認し、株価評価・納税猶予などの選択肢を提示することは、会計事務所ならではの価値提供と言えるでしょう。
5. いま動かないと2030年に間に合わない
労働力が急減するのは2030年代前半からです。設備投資の意思決定から効果が出るまで数年かかることを考えると、残された準備期間は実質3〜4年しかありません。
顧問先によっては「うちはまだ余裕がある」と楽観している経営者もいるでしょう。むしろそういう会社こそ、白書の試算データを示して危機感を共有することが大切ではないでしょうか。
まとめ
| キーポイント | 内容 |
|---|---|
| 2040年の雇用者数 | 2018年比で**約8割半ば**まで減少の試算 |
| 賃上げの制約 | 中小企業の賃上げ余力は厳しい |
| 解決の方向 | **労働生産性の向上**が唯一の打ち手 |
| 会計事務所の役割 | 原価管理・補助金・人時生産性・事業承継支援 |
労働供給制約社会への備えは、もはや経営課題ではなく経営の前提条件です。会計事務所が顧問先と一緒に動くべきテーマの中で、優先度は最上位と言ってもよさそうです。
免責事項:本記事は情報提供を目的としており、具体的な経営・税務判断については必ず税理士等の専門家にご相談ください。最新情報は中小企業庁・経済産業省の公式サイトをご確認ください。
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