外国株の配当やETFの分配金を扱う関与先がいる事務所では、ここ数年「外国税額控除」と「分配時調整外国税相当額控除」をセットで申告するケースが確実に増えてきました。実はこの2つを”同時に”適用した個人の確定申告で、明細書の様式表記に起因して外国税額控除額が過大に算出される事案が公表されています。国税庁は2024年12月、納税者本人や税理士が結果を検証できるExcelファイル「外国税額控除検証用ツール」を公開し、合わせて確定申告書等作成コーナーのプログラムも2025年1月6日に修正済みです [1]。
本稿は、この検証ツールの中身と使い方、修正申告の要否判定、そして関与先への声かけの考え方を、現場の感覚でまとめたものです。「該当者がいるか確認だけはしておきたい」という方も、まずは読み流していただければと思います。
何が起きた?明細書様式の記載方法の誤り
問題が起きたのは「外国税額控除に関する明細書(居住者用)(令和2年分以降用)」と、対応する非居住者用の様式です。具体的には「3 所得税及び復興特別所得税の控除限度額の計算」欄の「所得税額」欄および「復興特別所得税額」欄の記載方法(裏面の説明)に誤りがあり、分配時調整外国税相当額控除を同時に適用するケースで、外国税額控除額が過大に算出されることがあったとされています [1]。
少し噛み砕くと、こういうことです。
- 「所得税額」欄(①):本来は「分配時調整外国税相当額控除に関する明細書」の「3 ⑺」の金額を転記すべきだったのに、誤った説明により分配時調整前の金額を書いてしまうケースが起きうる
- 「復興特別所得税額」欄(②):本来は「分配時調整外国税相当額控除に関する明細書」の「3 ⑼」の金額を転記すべきところ、これも誤った説明により本来より大きい金額が記載されうる
要するに「分配時調整で減らした後の金額を使うべきところを、減らす前の金額で計算してしまった」というイメージです。控除限度額の分子が大きくなるので、結果として外国税額控除額が膨らんでしまう、という構造ですね。
なお、控除限度額の計算式そのものは変わっておらず、所得税の控除限度額=その年分の所得税額×(その年分の調整国外所得金額/その年分の所得総額)という基本式は従来どおりです [2]。
国税庁が公開した「外国税額控除検証用ツール」とは
国税庁が公開しているのは、シンプルなExcelファイル2種類と、その使い方PDFです [1]。
ファイル構成は「申告情報」シートと「●年目表面」「●年目裏面」シートで、年分ごとに表面・裏面の数字を写し取って入力していくスタイルです [5]。対象は、令和2年分以降の確定申告で「分配時調整外国税相当額控除」と「外国税額控除」を初めて同時に適用したケースとされています。
ありがたいのは、ツール内で「外国税額控除に関する明細書」自体を作成・印刷できる点です。修正申告が必要になった場合、ここで印刷したものを修正申告書とともに郵送提出するという運用も認められています [1]。
使い方の流れ(3ステップ)
筆者の手元で触ってみた限り、操作はかなり素直です。
ステップ1:申告情報シートで年分を選ぶ
「申告情報」シート上部の年分欄をクリックし、分配時調整外国税相当額控除と外国税額控除を「初めて同時に適用した年分」を指定します [5]。
ステップ2:各年の表面・裏面シートに数字を写す
「●年目表面」「●年目裏面」シートに、提出済みの「外国税額控除に関する明細書(控用)」の表面・裏面の金額を順次入力します。控用のコピーが手元にあれば、写経のような作業で完了します。
ステップ3:自動計算結果と提出済み明細書を突合
ツールが本来あるべき外国税額控除額を再計算してくれるので、提出済み明細書と差異があるかを画面上で確認します。差異が確認できた場合は、ツールから印刷した「外国税額控除に関する明細書」を、修正申告書と一緒に郵送提出するという流れです [1]。
なお、令和7年(2025年)1月6日以降は「確定申告書等作成コーナー」のプログラム側も修正済みのため、修正申告書自体は同コーナーで作成することも可能になっています [1]。
修正申告は必要?100円判定と加算税の取扱い
ここが実務的に一番気になるところです。国税庁の説明をそのまま整理すると、以下の3点が要点になります [1]。
- 申告内容の見直しを要するのは、外国税額控除のほかに「分配時調整外国税相当額控除」の適用がある場合に限られる
- 100円未満の端数は切り捨てとなるため、修正申告により増加する税金の額が100円未満の場合は修正申告は不要
- 人為誤り等に起因して増加する所得税については、加算税・延滞税ともに発生しない
3つ目はけっこう大事で、関与先に説明する際の心理的ハードルがぐっと下がるポイントです。「税理士側から能動的に過去申告をチェックして、必要なら修正申告しましょう」と提案しても、加算税・延滞税がない以上、純粋に「正しい税額に直すだけ」の手続きで済みます。
実務フローを整理するとこうなります。
- 該当しない関与先(分配時調整外国税相当額控除を一度も適用していない)→ 対応不要
- 該当する関与先 → 検証ツールで再計算 → 差異が100円未満なら修正申告不要 → 差異が100円以上なら修正申告
修正申告書を作るときの細かい注意点
修正申告書を作成する場合、申告書第二表の「特例適用条文等」欄に「人為誤りによる外国税額控除額の修正」と記載する必要があります [1]。確定申告書等作成コーナーで作る場合は「修正申告によって異動した項目の入力」欄に同じ内容を入力します。
もう一つ忘れがちなのが、修正申告書の提出後、税務署から納付書の送付や納税通知のお知らせは届かないという点です。納付手続きは納税者側(実務的には事務所側)で能動的に動かないと取りこぼします。納税証明書が必要な関与先がいる場合は、納付日の管理も合わせて行いましょう。
会計事務所としての関与先チェックリスト
外国株式の配当や、米国ETF・先進国株式インデックスファンドなどで源泉徴収された外国所得税がある関与先は、まず該当の可能性があると考えてよいでしょう。実務的なチェックリストは次のような流れになります。
- 令和2年〜令和6年分の確定申告で、外国税額控除と分配時調整外国税相当額控除の両方を申告書に乗せたことがあるか
- 該当があれば、控用の明細書を引っ張り出して、検証ツールに金額を入力
- 100円以上の差異が出たら、修正申告の方針を関与先に説明
- 確定申告書等作成コーナー(令和7年1月6日以降利用可)またはツール印刷+郵送のいずれかで提出
なお、令和2年から令和5年までの期間の確定申告について、令和6年分の繰越控除限度額や繰越外国所得税額の計算に影響が出るケースもあり得ます。この場合は「過去年分の明細書の内容を踏まえたうえで、令和6年分の外国税額控除額を計算してください」と国税庁が明示しています [1]。要するに、過去5年の数字を一気に流し込んで全体整合を取ったうえで、最終年だけ修正申告するというイメージです。
まとめ
外国税額控除検証用ツールは、これまで事務所が個別にExcelで組んでいた検算作業を、国税庁の公式フォーマットで標準化できる地味に便利な実務ツールです。ファイル自体は2024年末公開ですが、令和2〜令和5年分の修正は原則として法定申告期限から5年(更正の請求期間)の枠内で動かせるため、2026年に確認しても十分間に合うケースが多いはずです。
ポイントを最後に整理しておきます。
- 対象は「外国税額控除」と「分配時調整外国税相当額控除」を同時適用したケースのみ
- 検証ツール本体(居住者用/非居住者用)と使い方PDFの3点セットを国税庁が公開済み [1]
- 増加税額100円未満なら修正申告不要、加算税・延滞税は発生しない
- 確定申告書等作成コーナーは令和7年1月6日以降、修正版に切り替わっている
関与先からの信頼につながる「気付ける論点」のひとつとして、今のうちにチェックリスト化しておきたい話題です。
本記事は情報提供を目的としており、具体的な税務判断については必ず税理士等の専門家にご相談ください。また、税法は改正される場合があります。最新情報は国税庁等の公式サイトをご確認ください。
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